新教材を検討する
〜4年水の温まり方1,2〜
2002.11.22〜30
対流が6年から4年に変わったのが前回の指導要領の改訂でした。それまでは、水の温度と密度の学習をかねていたものが、現象的に「温められた水は上に行き、そこへ周りの冷たい水が流れ込む。この繰り返しで水は温まる。」(指導書の解説)ことになりました。今回の改訂では、さらに現象的な扱いが多くなったようです。
さて、新教材はどうなったのでしょうか。教科書のやってみようでは次の教材が出てきます。これは、温められた水が上へ行くことを味噌玉の動きを観察することによってみようとするものです。
この教材のよいことは次の点です。
@500mlのペットボトルが200mlのビーカーにうまくはまる。
A高さがあるので、水が高くまで上ることがわかる。
しかし
@アルミのふたがうまくはまらない。
A水の動きがあまりわからない。
という問題がありました。
そこで、ふたに穴をあけ、アルミ箔をはってみました。
しかし、やはり水の動きはうまく観察できません。考えてみるとこの実験の意味は何なのでしょう。身の回りにある素材を使うことを主眼においているのでしょうか。学校教育が「自ら考え」ることを重視するため、手の込んだ実験器具を作らなくなったことに関係があるのかもしれません。過去に作った教具の方がずっとよくわかるような気がします。教材開発の理念 ものの体積と温度参照
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さて,同じような目的を持った次の実験も紹介されています。
これらは,ともに,「暖められた水はどこまでも上がっていく」
ことを観察させるのが目的なのですが,味噌を入れてもほとん
ど水の上昇は観察できませんでした。
そこで,基礎実験として,試験管を使って実験をしてみました。試験管なら熱伝導や構造からもっとも基本的だからと考えたからです。
しかし,この実験でも味噌は上がりませんでした。
もはや万事休すです。
この実験のために細長いパイプを注文しましたが,それを持ってきた業者にほかの学校の情報を聞いてみたところ、下のような実験器具を作っている学校があるとのことでした。
確かに,この実験ならうまくいきそうです。しかし,この教具で子どもたちが認識することは何でしょう。きっと「こんにゃくが上に動いた」と言うことだと考えられます。実験はその概念の本質にのみ目がいくようにすべきです。(子どもの発達段階と教育の空気の温度と体積の概念調査「膨張する空気によるかんてん移動」参照)
そうしてみると,この教具を改良する意味があまりないように思えてきました。確かにビーカーに水を入れて熱する実験では,「水は回りながら暖まっていく」のは分かりますが,「温められた水は上に行く」ことはわかりにくいと思います。教科書の解説では「熱せられた部分の水の上昇をとらえることが重要である。・・・対流のイメージではなく,熱せられた部分の上昇の結果・・・」(指導書P84)この概念はとても大切だと思います。教科書会社は,この概念のために「やってみよう」に実験を紹介したのでしょう。その意味では評価できると思います。
簡単で,理科が不得手でも「温められた水は上に行く」ことが分かりやすい実験を考える必要があります。
教科書の実験器具の問題点は2つではないでしょうか。
@ 熱量が小さい。(60℃程度)
A 底面の一部ではなく全体を暖めるため,対流が起こりにくい。
つまり,「ビーカーを使って,一部を加熱するのが一番よい」のではないかと考えられます。しかし,ビーカーでは高さがないので上へ行く現象は観察しにくいことは明らかです。
そんなことを考えている時,この教科書の著者の一人でもある大竹三郎先生からかつて紹介されたトールビーカーがあることに気付きました。トールビーカー とは,1000mlのビーカーでちょうど500mlのビーカーを二倍の高さにしたものです。
そこで早速実験をしてみましたが、これも味噌はあまりうまく上がりません。しかし,先ほどの業者の方から紹介された「水彩絵の具のかたまり」を使ってみたところすばらしくうまくいきました。
赤い絵の具が静かに上へ上へと上がっていきます。「温められた水が上へ上へ上がっていく。」ことが大変分かりやすい実験の完成です。簡単に出来るので是非試してみてください。
【絵の具の入れ方,水の入れ方】
「学力の低下」が叫ばれるようになってから,やけに塾へ行く子供が増えたように思います。事前に知識を持っているのですから、児童は「授業がつまらない。飽きる。」状況になります。そのため,学校では,「詰め込んだ知識を実験で確かめる」雰囲気になってきます。したがってどうもざわついた雰囲気になってくるのです。
しかし,知識があるのですから,実験そのものも工夫すれば,起承転結のある授業はより可能になっているともいえます。子どもの主体性を大切に!という耳障りのよい授業を追い求めていては,子どもが授業に乗ってくることはないといえましょう。子どもの考え方を育てることと這い回る学習とは全く別次元なのです。
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